北海道然別湖付近のアカエゾマツ林 磯谷 達宏
北海道の然別湖(しかりべつこ)は、大雪山国立公園の一角を占める湖である。自然に形成された堰止湖で標高が810mと高く、周囲は火山とそこに成立する希少な動植物に囲まれて、エコツーリズムを含むよい観光の場となっている。付近では火山由来の未熟な土壌の土地がみられ、そこには最終氷期から生き残ったトウヒ属バラモミ節のアカエゾマツ(Picea glehnii)の純林が生育している。


然別湖は、最近5万年ほどの間に、然別川が新しい火山の形成に伴い堰き止められることによって形成されたと考えられている(写真1)。然別湖の周囲はおもに針葉樹林よって囲まれているが(写真2)、ある程度土壌が成熟している場所では、北海道で広くみられるエゾマツやトドマツが優占しているようである。


然別湖では一般的な湖畔の観光施設が充実しているほか(写真3)、自然観察やエコツーリズムの拠点となるネイチャーセンターが充実している(写真4)。


然別湖付近の火山は最近の約5万年間も活発な活動を続けており、付近の山には岩塊や未熟土壌の多い部分が点在している(写真5)。写真6は、ナキウサギがよく現れるという風穴のある一帯である。最終氷期の東北日本で広く優占していたアカエゾマツは、今日ではおもにこのような、エゾマツやトドマツなどの間氷期型の極相種が生育できない乾燥が厳しく貧栄養な立地で生育している。


寒さや乾燥が厳しい氷期に優勢なアカエゾマツは、同じトウヒ属でも間氷期型で扁平な葉をもつエゾマツと違って、横断面が方形に近い先鋭な葉をもっている(写真7、8)。


写真9と写真10は、然別湖付近でみられたアカエゾマツの純林の様子である。写真9でみられるように、小さく剝がれやすい特徴的な樹皮から、アカエゾマツを他の針葉樹から識別することができる。写真10は、まとまった規模でみられたよく育ったアカエゾマツ林である。同じような林でも、間氷期型のエゾマツやトドマツの林であれば、葉群がもっと密に付いていて林の奥までは見通しにくくなるのが普通である。しかしながら写真10でみられるように、痩せた樹形をもつアカエゾマツの純林は林内がかなり明るく、林の奥まで見通すことができる。氷期の東日本に広く生育していた針葉樹林の景観は、このような林に類似した様子だったであろうと考えられる。
<写真1~10:2017年8月30日,磯谷達宏 撮影>