スカジット・バレーの農業
8月号で、オランダのチューリップ栽培が盛んな地域を取り上げた。そのついでに、アメリカの例も探してみた。取り上げるのはバンクーバーから南へ100㎞ほどにある沖積平野である。
アメリカ・ワシントン州北西部に位置するスカジット・バレー(Skagit Valley)は、バーリントン周辺を中心に広がる農業地域であり、「チューリップの産地」として世界的に知られている。しかし、実際にはチューリップ栽培だけでなく、多様な農業が発達した全米有数の生産地域である。
最も有名なのはチューリップやスイセン、アイリス、ヒヤシンスなどの球根栽培である。この地域では花を観賞することよりも球根の生産を目的としており、開花後は花だけを摘み取り、球根の肥大を促す栽培方法が採られている。収穫された球根は全米各地や海外へ出荷され、地域の重要な農産物となっている。
球根栽培以外にも農業は多様である。ワシントン州有数のジャガイモ産地として知られ、排水性に優れた沖積土と大区画圃場を利用した機械化農業が行われている。また、ホウレンソウ、ビート、キャベツ、ブロッコリーなどの野菜種子生産も盛んである。夏季でも比較的冷涼な気候は、開花・受粉・採種に適しているため、全米でも重要な採種地域となっている。さらに、ブルーベリーやラズベリー、イチゴなどのベリー類の栽培も近年増加している。
谷周辺では酪農も発達しており、牧草やサイレージ用トウモロコシの栽培と乳牛飼育が組み合わされている。また、小麦や大麦などの穀物も輪作体系の一部として栽培され、土壌の維持と生産性向上に役立てられている。
この地域の農業を支えているのは優れた自然条件である。スカジット・バレーは西側をピュージェット湾、東側をカスケード山脈に囲まれた広大な沖積平野であり、スカジット川が運ぶ肥沃な沖積土に恵まれている。さらに、年間降水量約700~900 mmの海洋性気候により、冬は比較的温暖で夏は冷涼である。平坦な地形と排水施設の整備も高い農業生産性を支えている。
このような自然条件はオランダの花き栽培地域と非常によく似ている。海洋性気候、排水管理技術、球根栽培、観光資源としての花畑、機械化農業など、多くの共通点をもつことから、19世紀末から20世紀初頭にかけてオランダ系移民が球根栽培を導入し、現在の一大産地へと発展した。
リモートセンシングの観点からも、スカジット・バレーは非常に興味深い地域である。3月下旬から4月中旬にはチューリップやスイセンが開花し、赤・黄・紫などの鮮やかな縞模様が広がる。5月以降は花が摘み取られて球根育成のため一面が緑色となり、さらに夏から秋にはジャガイモや野菜、牧草地へと景観が変化する。このような季節的な土地被覆の変化は、Sentinel-2のNDVI画像で明瞭に把握でき季節変化の解析を学ぶ教材としても優れた地域である。
Sentinel-2のダウンろーそサイトにある、NDVI画像を4時期並べてみた。何が読み取れるだろう。ストリートビューの画像は、この地域のチューリップ農園の6月の景観である。

スカジット・バレーは、バンクーバーの南へ約100㎞に位置する

スカジット・バレーは西側をピュージェット湾、東側をカスケード山脈に囲まれた広大な沖積平野である。
Sentinel-2 2026年4月4日 RGN:342

衛星画像は画像1と同じ




スケールは、画像2を参照のこと